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設計者は、何を見ているのか。-建築を考える。No.01-

5 日前
読了時間: 5分

設計の成果物は、ほとんどが線と文字です。壁の位置、窓の大きさ、天井の高さ、部材の寸法。図面だけを見れば、設計はずいぶん機械的な仕事に見えると思います。

実際、手を動かしている時間の多くは、寸法を確かめ、線を引き直す作業です。それでも線を引いているあいだ、頭の中にあるのは線そのものよりも、それが建ち上がったときの様子のほうです。

光がどこから入り、素材がどのように見えるのか。人がどこに立ち、何に触れ、どう動くのか。図面には直接描ききれないものを思い浮かべながら、一つひとつの寸法を決めています。



素材をどう扱うか


設計の相談で、「いい素材を使いたい」というお話をいただくことがあります。素材が空間の印象を大きく左右するのは確かですが、上質な素材を選べば上質な空間になるかというと、そう簡単ではありません。

例えば黒皮鉄。鋼材の表面に残る黒い皮膜には、鈍く沈んだ光と、一枚ごとに異なるむらや揺らぎがあります。光の当たり方によって重たく見えることもあれば、柔らかな表情が浮かび上がることもあります。

石も同じです。磨くのか、割肌のまま使うのか。正面から光を受けるのか、壁面をなめるように横から光が当たるのか。それだけでも、色や凹凸の感じ方は変わります。

高価な素材でも、納まりが粗ければ魅力は十分に伝わりません。反対に、ありふれた素材でも、寸法や納まりを整えることで空間に品が生まれることがあります。

何を使うかと同じくらい、どう扱うか。素材を選ぶときには、その先にある空間の表情を考えています。



細部に表れるもの


人の所作に品が表れるのは、大きな動きよりも、むしろ手元や間合いのように思います。器を置くときの手つきや、戸を閉め終える瞬間の指先。何気ない動きの終わり方に、その人らしさが表れることがあります。

建築にも、それに似たところがあります。

見切り、巾木、建具の枠、異なる素材が接する部分。素材がどこで始まり、どこで止まるのか。そうした細部の扱いによって、空間の印象は変わります。

何を見せるかと同じくらい、何を見せないかも考えます。

必要な線は残し、余分な線を減らす。一方で、あえて素材の境界を見せることもあります。大切なのは、すべてを目立たなくすることではなく、その空間にとって必要な納まりを選ぶことです。



所作と寸法


建築の寸法は、人の動きとも深く関わっています。

以前の計画で、引き戸の引手とスイッチの高さを揃えたことがあります。

スイッチには一般的に使われる取付高さがあり、引手には建具の寸法や納まりがあります。それぞれを別々に考えれば、壁には異なる高さの要素が並ぶことになります。

そこで、実際に手を伸ばしたときの動きを考え、引手とスイッチの高さを調整しました。

部屋に入り、戸を引き、明かりをつける。

一連の動作の中で、手が自然に向かう位置を考える。視覚的な整理だけでなく、身体の動きにとっても無理のない寸法を探るということです。

こうした小さな違いは、日常の中でほとんど意識されません。それでも毎日繰り返される動きの中で、使いやすさや居心地を少しずつ形づくっているのだと思います。


図面に寸法を書き込むとき、思い浮かべているのは、その前に立つ誰かの手元です。



性能とコストの中で


もちろん、空間の美しさだけで建築を決めることはできません。

釧路のような寒冷地では、断熱や気密、凍害への配慮、雨仕舞いなどが欠かせません。どれほど美しい納まりでも、水が回り込んだり、維持管理が難しかったりすれば、長く使い続けることはできません。

コストにも限りがあります。すべての部分に同じだけ手をかけるのではなく、どこに時間や費用を使い、どこを整理するのか。その判断によって、限られた予算の中でも空間の質を高めることはできると考えています。

性能やコストは、単に表現を制約する条件ではありません。構造や施工性、維持管理も含めて考えることで、建築として何を優先すべきかが見えてきます。



時間の先にあるもの


建築は、完成した日がいちばん美しいとは限りません。

素材は使われることで表情を変えます。人が触れる場所には艶が生まれ、光や湿度、日々の手入れによって、完成時とは異なる姿になっていきます。

ただし、変化のすべてを味わいとして受け入れればよいわけではありません。素材の劣化が安全性や耐久性に影響することもあります。

どのような変化を許容し、何を防ぐべきか。完成したときの姿だけでなく、使い続けた先の状態まで考えておきたいと思っています。



図面の向こうにあるもの


設計者が図面を描くとき、考えていることは一つではありません。

光の当たり方、素材の表情、人の動き、構造や性能、施工の方法、費用、そして完成してからの時間。

それぞれが別々に存在するのではなく、互いに影響し合っています。一つの寸法を変えることで、見え方や使いやすさだけでなく、施工や将来の手入れのしやすさまで変わることがあります。

設計とは、そうした関係を読み取りながら、一つひとつ判断していく仕事なのだと思います。

図面に残るのは、線と文字です。

けれど、その向こうには、そこで過ごす人の身体があり、暮らしや仕事があり、建築が使われていく時間があります。

その先にあるものを、できるだけ丁寧に想像すること。


私にとって、建築を考えることは、そこから始まっています。

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加藤寛基建築設計事務所
 釧路を拠点に、道東を中心に北海道全域へ対応しています。

​ 住宅の新築・改修 / 店舗・小規模建築 / 設計相談・セカンドオピニオン

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