設計のあとも、まちのなかで ちいさな関わりを、まちに重ねる ― hakoichiのこと
建物の設計は、引き渡しをもって一つの区切りを迎える。敷地を読み、図面を描き、現場に通い、完成した建物を施主に託す。設計者の仕事は、そこでひとまずの完結を見る。
その先は施主の時間であり、設計者と施主が顔を合わせる機会は自然と減っていく。
それが通例であると理解しながらも、そこに物足りなさを感じてきた。設計の過程では施主と幾度も対話を重ね、ときに暮らし方や商いの考え方にまで踏み込む。家族のこれからや店の行く末について、時間をかけて語り合うこともある。それほど近い距離にあった関係が、引き渡しを境に途切れてしまう。
不具合があれば連絡を受け、点検に伺うことはある。しかしそれは用件を介した関係であり、設計の途中にあった対話とは性質が異なる。用件がなくとも顔を合わせられる関係を、どうすれば保ち続けられるのか。
設計を引き渡しで終わらせたくない。
hakoichiは、その思いから昨年始めた自主企画である。
異なる店が、一日だけ交わる場
当事務所は住宅のほか、飲食店や物販店など、業種も地域も異なる店舗の設計に携わっている。それぞれの店とは設計を通じて個別に関わってきたが、店同士を結びつける役割は担ってこなかった。設計者は多くの店の内側を知る立場にありながら、その知見は一つひとつの案件のなかに閉じていたのである。
普段は交わることのない店同士が同じ場所に並んだとき、何が生まれるのか。
ある店を目当てに訪れた人が、隣の店に出会う。出店者同士が互いの仕事に触れ、新たな関係が生まれる。そうした化学反応への期待も、企画の動機の一つであった。
住宅の施主にとっても、気兼ねなく足を運べる場があれば、竣工後も再び顔を合わせる機会となる。住まいの相談をするためではなく、ただ立ち寄るための理由がある。設計者と施主という関係とは異なる、緩やかなつながりを保ち続ける契機にしたいと考えている。
自ら手がけた場所で開く
会場は、釧路市鳥取北のLexicon BE Studioである。
当事務所が改修設計に携わった建物であり、駐車場と広い空間を備えている。車での来場が前提となる地域において、十分な駐車場は欠かせない条件である。また、複数の店が並び、来場者がゆとりをもって巡ることのできる広さも求められた。
こうした実用上の理由に加え、自ら設計した空間が実際にどのように使われるかを確かめられる点も、会場に選んだ大きな理由である。設計時に描いた想定と、実際の使われ方との間には、必ず差が生じる。人がどこに留まり、どこを通り過ぎるのか。その差は、使われている場に身を置かなければ見えてこない。
来場者の何気ない反応は、設計者にとって最も率直な評価となる。hakoichiは、設計した空間を自らの目で確かめ、次の設計へとつなげるための場でもある。
昨年、感じたこと
昨年の開催では、出店者も来場者も終始和やかに過ごしていた。大きな話題を呼ぶ催しではなかったが、その穏やかな一日のなかに、設計事務所が少しずつ地域に開いていくことの手応えが確かにあった。
同時に、主催者として学んだこともある。案内を届ける時期によって訪れる人の数は変わり、催しの組み立て方によって集まる人の顔ぶれも変わる。場の性格は、空間だけでなく運営のあり方によっても形づくられる。建築の設計と同じく、場の運営もまた設計の対象なのだと実感した。
その実感を踏まえ、場所と運営の方法を見直しながら、継続することを決めた。
広げすぎず、確かに
hakoichiの出店者は、設計を通じて縁のあった施主と、日頃から関わりのある方々に限っている。広く出店者を募る催しではない。
出店者を選ぶことは、来場者に対する責任でもあると考えている。並ぶ店の一つひとつが信頼に足るものであってこそ、来場者は安心してその場を楽しむことができる。主催者が関係を築いてきた店だからこそ、自信をもって紹介できる。
信頼できる関係を基盤としながら、その輪を少しずつ外へ広げていく。一度に大きく開くのではなく、確かなつながりを一つずつ重ねていく。それが、小さな設計事務所にふさわしい地域への開き方であると考えている。
これから
建築は、使われ続けてこそ価値を持つ。どれほど丁寧に設計された店であっても、人が訪れなくなれば、その役割を終えてしまう。設計者にできることは図面を描くことだけではなく、その場所が長く使われ続けるための関わりを持ち続けることでもあるはずだ。
小さな設計事務所の仕事と、小さな関わり。その積み重ねによって、地域に根ざした大切な店が永く愛され続けること。hakoichiは、そのためのささやかな一日である。
開催概要
日時:2026年11月15日(日)11:00〜16:00
会場:Lexicon BE Studio(釧路市鳥取北)
出店:糸/Jimico./博珈琲/magic hour

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